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個人事業と法人成りはどちらがお得になる?



「このまま個人事業で行くのか法人にしたほうが良いのか?」

今回、個人事業を長年されている方からこのようなご相談がありました。
かなり所得が出ている方で、家族の方も専従者として事業を手伝っています。

個人事業者の方は、法人成りについて一度は考えたことがあると思います。
また、これから起業をしようと考えている方は、個人事業者になるか、法人を設立するかで悩んでいる方も多いと思います。
これについては、個々の状況により一概には言えません。
ですが、今回のご相談の場合、税金の面だけを言えば法人設立した方がかなりの節税効果があるようでした。

しかし、厳密に言えば、法人成りした場合と個人事業者の場合の損得判定は、社会保険料の相違や経費の範囲の相違も考慮し、どちらの方がお得かを判定しなければなりません。
ところが、「住んでいる市町村により、個人事業者の国民健康保険料がかなりの額相違する」という問題が特に大きな支障となり、簡単な損得判定でそこまで考慮することは現実的にはかなり困難になります。

そこで、今回は主にお金の観点から、そのメリット・デメリットを簡潔にまとめたいと思います。

法人成りのメリットとは?

法人成りのメリットは、主に以下のとおりです。

 1.所得分散・給与所得控除

個人の場合には、その所得が全て個人事業者のものとなります。
所得税は、所得金額が多くなると税率が高くなる累進課税制度が採用されています。
この為、ある程度の所得になると個人事業者1人で全ての所得を得るよりも、その所得を何人かに分散したほうが、それぞれの税率が低くなる分、世帯全体で見た税金の合計金額は少なくなります。

例えば、極端な例ですが、飲食店を営む個人事業者が1人で1,000万円の所得を得た場合、それにかかる所得税・住民税・個人事業税を合わせた税額は約300万円にもなります。
(基礎控除以外は考慮していません。)

これに対し、法人成りして、法人の課税所得が0円となるように上手いこと社長と奥さんに、それぞれ役員報酬を500万円(合計で1,000万円)支払ったとします。
すると、給与所得控除も使えるので、社長と奥さん2人分の所得税・住民税(※1)は約106万円となり、なんと194万円(※2)もの節税できたことになります。
(上と同じように基礎控除以外は考慮していません。)
※1 給与所得に個人事業税はかかりません。
※2 法人住民税の均等割課税は考慮していません。

個人事業でも青色事業専従者という制度により家族に給与を支払うことは出来ます。
しかし、年齢要件や親族要件といった要件があったり、事前に税務署に届けておかなければならなかったりと多くの制約があります。
また、青色事業専従者給与を1円でも払っていれば、この方にかかる配偶者控除や扶養控除は適用できなくなります。

これに対し、同族法人からの役員報酬であれば、定期同額給与の要件を満たせば基本的に自由に役員報酬を支払うことが可能です。
また、役員報酬の年間支払金額を103万円以下にしていれば、個人事業の場合とは異なり、給与を払っていても配偶者控除や扶養控除を適用することが出来ます。

2.消費税の免税

通常、資本金1,000万円未満の法人を設立した場合、最初の2年間(若しくは1年間)は消費税の納税義務が免除されます。
最大で2年間消費税を納付する必要がなくなるので、その分資金を確保する事が出来ます。
売上高が大きいと、この免税については見過ごせないと思います。
(消費税の納税義務に関しては、コチラの記事をご覧ください。)

これは、個人事業者の場合も同じで、最大で開業後2年間は消費税の納税義務がありません。
よってこれから起業するような方は、最初の2年間は個人事業で初めて、消費税の課税事業者になる3年目に法人化すれば、また2年間消費税が免除されますので、合計で最大4年間の消費税の納税が免除される事になります。

この一面だけを取り上げると、初めから法人成りするのではなく、まずは個人事業で初めてみてから数年後に法人化をする事も検討してみてもいいかと思います。

3.法人契約の生命保険料の一部又は全部が費用になる(事業保証等)

個人であればどれだけ生命保険料を支払っていても、年間最大12万円までしか所得控除が出来ません。

これに対して法人成りをして、加入形態が「契約者=法人、被保険者=社員(役員を含む)、保険金受取人=法人」となっている、一定の要件を満たした生命保険に加入することにより、その保険料の全部(又は一部)が法人の費用となります。

保険金額が大きくなればなるほど、どれだけ支払っても12万円の所得控除にしかならないのと、要件を満たせばその全額が費用になるのとでは、短期の節税という意味での効果は断然変わってくると思います。

4.出張手当が費用になる

個人事業者の場合でも、出張に際しての旅費や宿泊費の実費部分は当然経費になりますが、出張手当を経費とすることはできません。

しかし、会社では、適正な金額等に設定した出張旅費規程を作成して、それを全社員に適用して運用していれば、この出張手当部分も会社の経費となり、仕入税額控除も出来ます。
しかも、なんと受取った社員側では、(適正な金額の範囲内であれば)出張手当に対しての所得税等は非課税となっています。
つまり、支払った法人も受取った個人も共に節税が可能となるのです。

ただし、「税金とか掛からないなら、給料でもらうより出張手当でもらったほうがいいや」と考えて、出張手当の額を異常に高額にするとか、出張に見せかたカラ出張で不正に出張手当を受け取っている場合は、勿論ですが所得税等がかかることになります。
出張手当はあくまで「出張中の諸雑費に対する実費弁償」といった意味合いですので、このことを忘れないように旅費規程を作成してください。

 5. 社宅が費用になる

個人事業者の場合、事業専用の事務所や店舗が別にあって、自宅は事業に全く使用していないとなると、当たり前ですが自宅に係る家賃や水道光熱費は経費になりません。

これに対して法人成りをして一定の要件を満たすと、費用に算入するが出来ます。

賃貸であれば、直接法人が貸主と契約し、この賃貸住宅を社宅として従業者に貸付けます。
社宅を借りている従業者は、家賃の一部を負担する必要がありますが、(その負担額が適正であれば)支払った家賃を法人の費用として処理することが出来ます。
(従業者が負担した額は、収益計上する必要があります。)

また、法人名義で購入して、それを従業者に貸付することも可能です。
その場合も、居住者は社宅家賃の一部を負担する必要があります。

6.家族を含む役員退職金

個人事業者の場合には、事業主自身に対する退職金は必要経費として認められません。
自分で自分に退職金を支払うという考え方が税法上はないからです。
さらに、事業専従者の親族にも退職金を支払うことが出来ません。

これに対して法人成りをすると、事業主に対する退職金も(適正額であれば)原則として法人の費用となります。

退職金には、

  • 長年の勤務に対する報奨としての性格がある
  • 長期間の勤務に対する対価の一部分の累積
  • 退職後の生活保障を考慮する

のような性格があり、通常の給料や賞与と同様に所得税を課税するのは合理的ではないと考えられている為か、税制上かなり優遇されています。

例えば、勤続35年の方が、2,000万円の支払を、「給与」として受けた場合と、「退職金」として受けた場合で比較してみたいと思います。

この2,000万円を給与として受け取ると、所得税・住民税合わせて約600万円にもなります。
(基礎控除以外は考慮していません。)

しかし退職金として受取ると、その年に退職金以外の所得が無ければ、所得税・住民税合わせて約6万円にしかなりません。
(同じく基礎控除以外は考慮していません)

7.欠損金の繰越控除

赤字になった場合、個人事業者でも法人でも青色申告の場合は、その赤字額を翌年度以降に繰り越して、黒字になった場合に費用として処理することが出来ます。
(個人事業者が繰越すのは純損失の金額となります。)

この期間が、個人事業者の場合は、3年間しか繰越すことができません。
これに対して、中小企業の場合は、

  • 平成20年4月1日以後に終了した事業年度から平成29年4月1日前に開始する事業年度は9年
  • 平成29年4月1日以後に開始する各事業年度は10年

繰越すことが可能です。

多額の赤字が発生した年があった場合、個人事業者だと、繰越せる期間が3年間と短いため、その後の3年間で同額以上の所得が無かった場合、その全てを控除することはできません。
しかし、法人であれば最大で10年間も繰越すことができるので、その危険はかなり少なくるのではないかと思います。

8.税金面以外

この他、税金面以外でも

  • 対外的な信用度が増す
  • 個人の責任範囲が限定される
  • 事業承継がスムーズに行える

といったメリットもあるかと思います。
(詳細は省きます)

法人成りのデメリットとは?

もちろん、メリットばかりではなくデメリットもあります。

1.法人設立登記費用

株式会社を設立する場合、登録免許税等が最低でも約25万円(電子定款認証を受ける場合には約21万円)かかります。
会社設立登記の手続きの代行を司法書士等の専門家に依頼すれば、その報酬もプラスでかかってきます。

これに対して、個人事業者の場合、開始するにあたって登録免許税等の特別な費用は発生することはありません。
開業届などの必要書類を税務署等に提出するだけで簡単に事業を開始できます。

2.事務・費用の増加

個人・法人ともに確定申告は必要です。
その確定申告も、個人事業者の場合は、何とか独力で会計処理や税務申告が出来たかもしれません。

しかし、これが法人となると、申告書の添付書類も多くなりますし、その内容も複雑になります。
また、申告書以外でも勘定科目内訳書や法人事業概況書など、個人では必要ない書類を添付して申告しなければいけません。
これまでに会社で経理を担当していたなどの経験がなければ、これを自力で作成するのはかなり厳しいのではないかと思います。

そうすると、専門家である我々のような税理士に依頼する事になると思います。
しかし、専門家に依頼するため、どうしてもそれなりの報酬が発生してしまいます。
法人成りするにあたって、目に見えての費用増加は、この税理士報酬が最も大きいかもしれません。

ただし、専門家のアドバイス等で、顧問報酬以上に税金が安くなったということも決して珍しくはないので、そういったことも踏まえて判断する事が必要だと思います。
また、慣れない会計処理や税務申告から開放され、より本業に集中したおかげで、業績を上げることが出来るといった事もあると思います。

税務申告以外でも、法人の場合は役員の任期満了に伴い登記が必要であったり、定款を変更する度に費用が発生したりと、個人ではかからない手間と費用が増えることになります。

3.社会保険への強制加入

社会保険については、その方の考え方によってメリット・デメリットの意見が分かれるかもしれません。

個人事業者の場合、社会保険は、常時使用する従業員が5人以上であれば強制加入になりますが、5人未満の場合は任意加入となります。
(しかし、事業主と事業専従者は加入できません。)

これに対して法人の場合は、従業員を雇っていなくても、報酬を受けている役員が1人でもいれば強制加入となります。

社会保険は、これから毎年保険料が引き上げられていく予定です。
事業者の負担額という点についてのみ比較すると、法人の方が社会保険の分だけ人件費負担は間違いなく大きくなり、デメリットといえるかもしれません。
しかし、会社員などが加入する厚生年金等の方が、自営業者などが加入する国民年金等より保障が手厚いのも(今のところは)事実です。

親族のみで事業をしているのであれば、法人にだけ与えられた個人事業にはない大きなメリットと考えることも出来るかもしれません。
ちなみに、私はデメリットだと思っています(笑)

 4.お金を自由に使えない

これに関しても、デメリットだけではなくメリットと言える点もあるかもしれません。

個人事業者の場合、事業用に開設した預金等であっても、事業とは関係無い私的なものに使っても何の問題もありません。
勿論、経費にはなりませんが、自分のお金を自分で使ったのだから返済する義務もありません。

これは裏を返せば、経営と個人事業主の生活とが混在されてしまうため、純粋な経営面だけの状況を把握しにくいと言えます。

これに対して法人成りをすると、例え代表者等であっても、(法人のお金なので当たり前なのですが)代表者等の私的なものに使うことは出来ません。
もし使ってしまった場合には、使用してしまった人に対する給与(又は貸付金)として扱うことになり、所得税が課されたり、返済義務を負うことになります。

これも裏を返せば、法人と個人とを分離する事によって、純粋に経営面の状況を把握しやすくなり、ひいては経営の合理化にもつながりやすいと言えるかもしれません。

しかし、一般的に個人事業者から法人成りした方は、法人の財布も個人の財布と同じだと考えがちなので、そういった方にとってはこれが一番のデメリットかもしれません。

5.赤字でも納付する法人住民税(均等割)の負担がある

個人事業者の場合、所得がマイナスの場合は課される税金は発生しません。

これに対して法人成りをすると、たとえ赤字であったとしても、(岡山市に事業所がある場合)最低でも7万1千円が課されることになります。

6.青色申告特別控除がない

個人事業者の場合、最大で65万円の青色申告特別控除という制度があります。
これは、一定の要件を満たしていれば、実際にお金を支出していなくても経費として認められるというお得な制度です。

これに対して法人成りした場合に、そのような制度はありません。
実際に支出が伴わなければ、基本的に費用とは認められません。

まとめ

法人成りを検討する場合には、長期的な視点でメリット・デメリットを考慮していくことが重要です。
意外に多いのが、『法人にすれば税金が安くなるって言われて、あまり何も考えず法人にしたんだけど、結局、個人事業の時よりコストはも手間もかかってしまっている』といったものです。
税金面のメリットだけを見て法人化をすると、このような事態にも陥りがちだと思いますので十分ご注意下さい。

また、事業承継やら、相続(争族)問題まで考慮すると、お金だけではない部分の検討も必要になるかと思います。

何事も最初が肝心です。
一人で悩まず、是非一度、朝日税理士法人に相談してみてください
良い解決策を見つける手助けができると思います。

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