相続手続きしなかったらどうなるの?~口約束は災いのもと~
相続税の申告は、被相続人が亡くなったときに一定額以上の財産を持っていないと必要ありません。
しかし、それと違って、人が一人亡くなると相続手続きそのものは誰にでも発生します。
過去において相続税の申告が不要だった方の話を伺いますと、よくあるトラブルが、不動産登記ができていないケースです。
不動産登記は、相続税の申告のように期限が決まっておらず、また登記をしなかったからといって特に罰則等の定めもありません。
不動産の「登記」 というものは、第三者へ対抗要件を備える為の手続であって、登記名義人と実際の所有者が違ったからといって、それだけで問題は生じないのです。
このように相続発生時に問題が生じにくいためか、不動産登記を行わずに何代も放置しているケースをよく見かけます。
ある時「祖父の相続手続きができていなくて心配なんです。」といった相談を受けました。
具体的な状況は、下の相続関係図に沿って説明します。
★前提条件
- 父(被相続人)が亡くなった。
相続人は母(配偶者)・相談人A(子)・弟B(子)の3名。
父の全財産は、母・弟Bの同意を得て、相談人Aが相続する予定。 - 父が亡くなる前に、祖父・祖母・叔母(長女)・叔父(二男)・配偶者乙が亡くなっている。
- 祖父が亡くなったときに、祖母・父・叔母・叔父の相続人全員の同意を得て、長男である父が祖父の全財産を相続した。
しかし、不動産については名義変更登記を行わず、遺産分割協議書等の書類も作成していない。 - 相談人Aは、不動産の名義がいまだに祖父名義になっていることを、父が亡くなってから知った。
このような状況の場合、祖父名義の不動産をAさん名義に変更しようとすると、どのような手続き必要になるのでしょうか?
まず、祖父名義の不動産をAさん名義に登記しようとすると
『祖父⇒父⇒相談人A』
と相続による所有権移転を2度行わなければなりません。
その際には、祖父の相続時の相続人である祖母・叔母・叔父の全員の同意が必要になります。
しかし、父が亡くなった時には、祖母・叔母・叔父が既に亡くなっているので、その際の相続人である配偶者甲・従兄弟C・従兄弟D・従兄弟E・従兄弟Fに相続権が移っている為、この全員から同意を得なければなりません。
祖父の相続時の(父が全財産を相続するという)事情を分かっている人が、既にいなくなっていることによって、その子供達からの同意を得るのは容易ではないはずです。
特に、今回の土地の価値が高かった場合には、ほぼ間違いなくもめてしまうでしょう。
どのような経緯でも相続人の同意が得られない場合には、家庭裁判所に遺産分割の申立を行わなければいけませんし、審判を受けなければならなくなる可能性も出てきて、手続は複雑になります。
昔と違って昨今は核家族化し、親戚付き合いもなくなっていますから、世代を経れば経るほど、困るのは後の世代の人達です。
「立つ鳥跡を濁さず」と言いますが、日本の政治のように問題の先送りをすることなく、必要な手続きを済ませるなり正式な書面を残すなりして、早期に手続をすることをおすすめします。