未払残業代を支払った場合
昨年、電通の新入社員が過労自殺した事件が大きくクローズアップされました。
違法な長時間労働が社会的問題となり、労働基準監督署も疑わしい事業者に対して調査や監督指導を強化しています。
ヤマトホールディングス、エイベックス・グループ・ホールディングス、関西電力等は、残業代の未払いについて労働基準監督署から是正勧告を受け、社内調査を行った結果、多額の未払残業代が発覚しました。
マスコミにとって大手企業は格好のネタになりますが、未払残業代の問題は大手企業に限ったことではありません。
逆に、中小企業の方が潜在的なリスクを抱えていると言ってもいいでしょう。
過労死事件が発生して損害賠償金を支払う事態になった場合、果たして、その賠償金の支払い能力が中小企業にあるでしょうか。
企業の存続問題に直結し、倒産危機にさらされることにもなりかねません。
未払残業代に係る所得税及び法人税の取り扱いはどうなるでしょうか。
国税庁HPに、以下のような源泉所得税の質疑応答事例が掲載されています。
【照会要旨】
当社では、本年1月に労働基準監督署から、労働者に対して実労働時間に即した割増賃金を支払うよう行政指導を受け、過去3年間の実労働時間に基づく残業手当と実際に支払った残業手当との差額を一括して支払うこととしました。
この場合、残業手当の課税年分はいつになりますか。
【回答要旨】
照会の場合は、本来各支給日に支払うべき残業手当が一括して支払われたものと認められますので、本来の残業手当が支払われるべきであった各支給日の属する年分の給与所得となります(所得税基本通達36-9(1))。
なお、給与規程等の改訂が過去に遡って実施されたため、残業手当の差額が一括支給されるような場合には、その差額について支給日が定められているときはその支給日、支給日が定められていないときはその改訂の効力が生じた日となります(所得税基本通達36-9(3))。
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過年度の給与として支払った場合は、文字通り、さかのぼって過年分の年末調整をやり直す必要があり、雇用保険料や源泉所得税はもちろん、場合によっては社会保険料にも影響を及ぼす可能性があります。住民税も追加の支払が発生するでしょう。
他方、上記【回答要旨】のなお書き部分のように、一時金(精算金等)として支払った場合は、賞与を支給した場合と同様に、支給を受けた年分の給与等に該当し、当年分の源泉所得税等が増えますが、過年分には影響を与えません。
法人税の取り扱いについては、過年分の給与か一時金かの未払残業代の支給形態に関わらず、支給した年度の費用とされます。
過去の労働に起因して支給されるものであっても、支給額(債務)の確定の時点で損金算入が認められるからです。
未払残業代を巡るトラブルは、支払う側の企業にも受け取る側の従業員等にも余計な負担が発生します。
「人材」は「人財」
そんな組織がでありたいと思います。
oka