財産債務明細書の見直し
従来より、所得税確定申告書を提出しなければならない方で、その年分の各種所得金額の合計額が2千万円を超える方は、その年12月31日現在の「財産債務の明細書」を確定申告書に添付しなければならないことになっていました。
しかし、罰則規定もないことから提出しない方が多く、提出された場合であってもその記載内容に不備も多かったと言われています。
国外財産調書
財産債務の明細書がそういった状況であるなかで、「国外財産調書」制度が創設され、平成26年1月から施行されています。
居住者の方で、その年の12月31日においてその価額の合計額が5千万円を超える国外財産を有する場合には、所定の事項を記載した「国外財産調書」をその年の翌年の3月15日までに、住所地等の所轄税務署に提出しなければなりません。
ここで注意しなければならないのは、その提出対象者が、所得税の確定申告をする必要がある者に限定されないことです。
「国外財産調書制度」は、その提出を促すような仕組みとなっており、以下の通りです。
- 国外財産調書を提出期限内に提出した場合には、国外財産調書に記載がある国外財産に対して所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても、その国外財産に係る過少申告加算税等が5%軽減されます。
- 国外財産調書を提出期限内に提出しなかった場合又は提出期限内に提出された国外財産調書に記載すべき国外財産の記載がない場合(記載が不十分と認められる場合を含みます。)に、その国外財産に対して所得税の申告漏れ(死亡した方に係るものを除きます。)が生じたときは、その国外財産に係る過少申告加算税等が5%加重されます。
- 国外財産調書に虚偽の記載をして提出した場合又は国外財産調書を正当な理由なく提出期限内に提出しなかった場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されることがあります。
適用初年度たる平成25年分の国外財産調書の記載内容については、税務当局もチェック及び指導を行ったようです。
財産債務調書
平成27年度税制改正では、「財産債務明細書」の名称を「財産債務調書」に変更するとともに、以下の見直しを行いました。
従来からの問題点の改善と「国外財産調書」とのバランスを図ったものです。
項目 | 改正前 | 改正後 |
提出基準 | その年分の所得金額が2千万円超であること | その年分の所得金額が2千万円超であること、かつ、次のいずれかに該当する (イ)その年の12月31日現在の所有財産の価額の合計額が3億円以上であること (ロ)国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の対象資産(有価証券等)の価額の合計額が1億円以上であること |
記載事項 | 財産の種類、数量及び価額 | 財産の種類、数量及び価額財産の所在、有価証券の銘柄等、国外財産調書と同様の記載事項財産の評価については、原則として「時価」、「見積価額」とすることも可。有価証券等については取得価額の記載も要する。 |
過少申告加算税等の特例 | - | 国外財産調書と同様、財産債務調書の提出の有無等により、所得税又は相続税に係る過少申告加算税等を加減算する |
その他 | - | 財産債務調書の提出に関する調査に係る質問検査権の規定を整備する。 |
上記の改正内容の通り、提出基準を狭め調査権限も設けられたことから、税務当局の対応も、従来の財産債務明細書のように提出の督促のみにはならないでしょう。
より踏み込んだ内容チェックを厳格に行うものと考えられます。
この改正は、平成28年1月1日以後に提出すべき財産債務調書について適用されます。