債権債務の相殺
【相殺による債権回収】
滞留している債権の回収には、手間やコストがかかります。
先方となかなか連絡がとれない、口では払うと言っていてもいざ約束の日が来ると先延ばしの話になってしまうこともあります。
そんな債権の回収手段のひとつに「相殺」があります。
もし同じ相手方に対して金銭債務を負っている場合には、こちらからの意思表示で相手に対する債権と同額を消滅(相殺)させることができます。
実際の意思表示は、通常相殺通知書の送付により行われます。
ただし、相殺が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 原則として当事者間で2つの債権が対立していること
- その対立している債権が同種の目的を有すること(金銭債権が典型)
- 双方の債権が弁済期にあること
- 双方の債権が有効に存在していること
- 性質上、相殺が認められること
なお、以下の相殺禁止事由がある場合には上記の要件を満たす場合であっても相殺が出来ません。
- 当事者の間に相殺を禁止する合意がある場合
- 自らの債務が不法行為による損害賠償義務である場合(不法行為の加害者側からは相殺を主張することが許されない。ただし、不法行為の被害者からは相殺を主張することが出来る。)
- 差し押えが禁止された債権の債務者である場合
- 差し押えを受けた第三債務者は、その後に取得した債権をもって相殺しようとする場合
- 破産法、民事再生法、会社更生法等で相殺を禁止されてる場合
他にも相殺禁止事由がありますが、相殺禁止事由は細かく設定されているのでご注意ください。
【相殺の注意点】
相殺は簡易に行い、その効果を得ることができますが、以下のトラブルが起こることもあります。
- 金銭貸借・売買契約等の契約書をちゃんと制作・保管していないと「当事者間で2つの債権が対立している」という要件が曖昧となり、当事者間の相殺しようとしている債権・債務に対する認識のズレが発生してしまう。
- 相殺の通知をちゃんと行ったかどうかという点で認識のズレが発生してしまうことがある。
必ず金銭貸借・売買契約等の作成及び保管をし、相殺するのであれば両者の間で相殺合意書等を作成(調印も忘れずに)する等し、通知した旨の証拠を備えておきましょう。
【相殺する場合の印紙税の取扱い】
一般に債権と債務を相殺した場合において、その事実を証明する方法として多くの場合領収書を作成します。
この領収書は、領収書としての表示がなされていますが、現実には金銭等の受領はないため、収入印紙は必要ありません。
ただし、たとえ相殺の事実を証明するために作成される領収書であったとしても、相殺の事実がその領収書上で明らかになっていない場合には、印紙税法上の受取書とみなされてしまいますので、相殺の事実を証明する領収書に記載されている金額分売掛金等と相殺した旨(「上記金額売掛金と相殺」等)をしっかりと記載しておかなければなりません。
また、差額の精算が行われている場合、その領収書には受取差額に応じた収入印紙が必要となります。
※なお、相殺による副次的な効果として、自己資本比率の改善があります。
銀行借り入れがある会社においては、自己資本比率などの財務指標も重要視されます。
上記に該当する債権が多額な場合には、検討してみてはいかがでしょうか。