生命保険の契約者変更情報が税務署に提出されるようになります!
生命保険契約の契約者を変更したら贈与税がかかるの?
お客様からこんな相談を受けました。
【問】
- 契約種別:80歳満期の養老保険
- 契約者:父(75歳)
- 被保険者:父
- 死亡保険金・満期保険金受取人:私(=子)
このような生命保険契約の契約者(=保険料負担者)を、「父」から「私」に変更しました。
これまで父が支払った保険料は、父から私が贈与を受けたということになり贈与税がかかるのでしょうか?
ちなみに、契約者変更後は私が保険料を支払う予定です。
【答】
生命保険契約の契約者を変更しただけでは、贈与税は課税されません。
ただし、被保険者が死亡して死亡保険金を受けとったり、解約して解約返戻金を受け取ったり、満期時に満期保険金を受け取った場合には、子が負担した保険料の金額に対応する部分の保険金には所得税、父が負担した保険料の金額に対応する部分の保険金には相続税 or 贈与税が課せられます。
子は、所得税と相続税 or 贈与税という2種類の税金を支払わなければいけなくなります。
税務署はどうやって把握している?
さて、税務署はどうやってこういった個人の所得情報等を把握しているのでしょうか?
それは、税務署には様々な情報が様々な所から報告されるように法律等が整備されていて、私達の所得情報もある程度把握できるようになっているのです。
代表的なところでいえば、「給与所得の源泉徴収票」や「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」といったところでしょうか。
(これらの詳しい説明は「法定調書とは?」をご覧ください。)
その中に、各生命保険会社から税務署に提出される支払調書があります。
現在、各生命保険会社からは次のような場合に支払調書が税務署に提出されています。
- 1回の支払金額が100万円を超える死亡保険金、満期保険金、解約返戻金等が支払われた場合
- 同一人に対して年間に20万円を超える年金給付金が支払われた場合
このように、現在は、原則的に保険金が「支払われた」場合に支払調書を提出していますので、契約者変更をしても変更内容について保険会社等から税務署へ報告されることはありませんでした。
その為、昔から次のような問題が国税庁から指摘されていました。
- ‹ケース1› 父の死亡に伴い、父から子へ契約者変更をした場合
父が契約者(=保険料負担者)であり、子が被保険者のケースで、父が死亡して子が契約を引き継ぐために契約者名義を変更した場合、本来ならその時点での解約返戻金相当額が「生命保険契約に関する権利」として相続税の課税対象となるが、保険金が支払われたわけではないため支払調書が提出されず、税務署が把握できない。 - ‹ケース2› 夫から妻へ契約者変更後、妻が満期保険金等を受取る場合
夫から妻に契約者を変更した後に死亡保険金、満期保険金、解約返戻金を妻が受取った場合、本来は変更前の契約者である夫が支払った保険料に対応する受取金は相続税 or 贈与税の課税対象となるが、支払調書は支払時点での契約内容で作成されるため、契約途中で名義変更があったことを税務署が把握できない。
つまり、いずれの場合も、納税者自らが相続税 or 贈与税の申告をするか、税務署が税務調査で見つけない限り、契約者変更の事実を税務署が正しく把握することができなかったのです。
この為、課税漏れが発生している可能性が非常に高い状態がずっと続いていました。
そこで、これを何とか改善したいとここ数年国税庁がずっと税制改正を要望しており、平成27年度税制改正で次のような形で実現されました。
契約者変更情報も税務署に提出される
平成30年1月1日以後に生命保険契約等について契約者変更が行われた場合、保険会社等に提出を義務付ける新たな法定調書制度が整備されることになりました。
調書の提出が義務付けられるのは、次の2つのケースで、記載事項はそれぞれ次のとおりです。
- 死亡による契約者変更があった場合
死亡による契約者変更情報および解約返戻金相当額等を記載した調書を税務署長に提出しなければならない - 1以外の契約者変更があった場合
保険金等の支払時の契約者の払込保険料等を記載することとする。
上で書いた課税漏れについて、<ケース1>の課税漏れは、税務署に相続税の課税対象金額がそのまま伝わるようになるので、完全にこの改正1で防止される格好になっています。
また、<ケース2>の課税漏れは、既払込保険料と『保険金支払時の契約者の払込保険料』が同額でない場合には、差額保険料は本人以外の者が負担したことが明らかになるので、この改正2で防止されるようになっています。
法人の場合は?
これまでは個人間についての話をしてきました。
しかし、この改正は(当たり前ですが)法人が契約者の生命保険契約等についても適用になります。
よく聞く節税策として、(あまりオススメはできませんが)低解約返戻金型の逓増定期保険を利用するものがあります。
これは、低解約返戻期間は法人が保険料を負担し、その後、解約返戻率が上がる直前に社長個人に名義変更をして1回分の保険料を支払い、その保険を解約することで社長個人に多額の所得移転をさせるというものです。
これらの契約についても、今後は解約返戻金支払時に社長が負担した保険料が支払調書によって明らかとなりますので、名義変更時の法人での経理処理ならびに名義変更によって社長が受けた所得移転の妥当性が問われることとなると思います。
まとめ
将来の契約者変更を前提に保険加入しているようなケースも含め、平成30年1月1日以降に契約者変更を行う場合は、それによって課税関係がどうなるのかを専門家に事前に確認しておくことをお勧めします。
保険に関する税務相談も朝日税理士法人までお気軽にご連絡ください。