企業が負担する健康診断等の費用に係る所得税の取扱い
企業が従業員に対して実施する健康診断について、多くの企業がその費用を負担していると思います。
あまり意識されることなく、企業が健康診断費用を支払っている場合も多くあると思いますが、労働安全衛生法(安衛法)の改正もありましたので、今一度整理してみたいと思います。
労働安全衛生法(安衛法)
- 事業者は労働者に対し、厚生労働省令で定めるとことにより、医師による健康診断(安衛法66条の10第1項に規定する検査を除く)を行わなければならない。
- 労働者は、全各項の規定により事業者が行う健康診断を受けなければならない。
ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行う健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行うこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出した時はこの限りでない。
上記のように「安衛法」は事業者には健康診断の実施義務を、労働者には健康診断の受診義務を課しています。
【労働者に対する取扱い】
・前記の通り、事業者が安衛法の規定に基づき実施する健康診断は、労働者は健康診断を受診することにより事業者から健康診断費用に相当する経済的利益を受けることになりますが、安衛法に規定された事業者としての責務を果たすことになりました。
労働者としての受診義務を果たすことにもなりその金額も高額でないことから、所得税を非課税として取り扱うことができます。
ただし、その対象者を合理的な理由もなく特定の者としている場合、給与として課税されることがあります。
また、他の取り扱いにも言えることですが、健康診断の費用は会社から直接、医療機関へ支払われていないと非課税として取り扱われないので注意が必要です。
【役員に対する取扱い】
・役員に対する健康診断は安衛法の事業者の義務とはいえないことになります。
しかし、法人として役員に健康診断を受診させる趣旨は労働者に対するものと同じであり、労働者と同様の内容で実施する健康診断費用は非課税として取り扱えます。
ただし、役員のみを対象とした健康診断を実施し、その費用を企業が負担した場合は、役員の給与として課税することになります。
※定期同額給与にひっかかる可能性もありますのでご注意を!!
【人間ドック】
・人間ドックの受診費用は、基本的な検査項目も多いことから健康診断より多少高くなりますが、従業員の健康確保の観点からは一般的には行われない高額なオプションを除き、事業者が負担する費用は健康診断と同様に非課税として差支えありません。
ただし、合理的な理由もなく特定の役員、従業員のみに人間ドックの受診を認める場合は給与として課税される場合があります。
【配偶者の健康診断】
・企業によっては、家族の健康管理を通じて安心して働ける環境づくりのために、配偶者の健康診断費用を負担することもあるようです。
しかし、安衛法では事業者は雇用関係にない配偶者については健康管理の義務はありません。
よって、事業者が労働者の配偶者の健康診断の費用を負担した場合には、その負担額はその労働者の給与として課税することになります。
【ストレスチェック制度】
・2015年12月1日施行 (労働者50人未満の事業所については当分の間努力義務とする)
・職業生活で強いストレスを感じている労働者の割合は依然高い状況であり、安衛法の改正により、心理的負担の程度を把握するための検査等が創設されました。
・事業者が義務として行うのは、「ストレスチェックの検査」と、「医師による面接指導」と考えられます。
その費用は、健康診断と同様に快適な職場環境の実施と労働者の安全・健康の確保という事業者の責務を果たすものであるため、非課税として取り扱われることになります。
今回は安衛法の観点から説明させていただきました。
上記のとおり2015年12月1日より「ストレスチェック制度」も施行されます。
事業者、労働者共に責務を果たし、快適な職場環境で、健康な体、精神で過ごしたいものですね。