雇用促進税制と所得拡大税制
今回は雇用促進税制と所得拡大促進税制をご紹介します。
雇用促進税制
雇用促進税制は、雇用の受皿となる企業を支援するため、雇用を一定以上増やした企業に対する税制上の優遇措置です。
その為、青色申告法人であれば大企業でも中小企業でも、企業規模に関わらず利用することができる制度となっています。
概略としては、当期末の雇用者の数を前期末の雇用者の数に比して5人以上(中小企業者等は2人以上)及び10%以上増加させた場合、増加雇用者1人につき40万円を法人税額(または所得税額)より税額控除できる制度です。
適用対象法人
青色申告書を提出している事業主(法人または個人事業主)であること。
※なお、中小企業者等の場合は適用要件が緩和されています。
(中小企業者等の説明はコチラのブログをご覧ください。)
適用対象年度
現行では平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度まで適用できます。
ただし、次の事業年度については、この制度の適用は出来ません。
- 所得拡大促進税制の適用を受ける事業年度
- 設立の日を含む事業年度(合併による設立を除きます。)
- 解散の日を含む事業年度(合併による解散を除きます。)
- 清算中の各事業年度
適用要件
この制度の適用を受けるためには以下の要件を全て満たしている必要があります。
- 前事業年度(※1)及び適用年度に事業主の都合によって離職(※2)をした雇用者がいないこと。
※1:前事業年度が1年ではない場合は、適用年度開始の日前1年以内に開始した事業年度です。
※2:雇用保険被保険者資格喪失届の喪失原因において、「3 事業主の都合による離職」に該当する場合を指します。 - 基準雇用者数(※1)が5人以上(中小企業者等については2人以上)であること。
※1:基準雇用者数とは、「当期末の雇用者数 - 前期末の雇用者数」のことです。 - 基準雇用者割合(※1)が10%以上であること。
※1:基準雇用者割合とは、前期末からの雇用者数の増加割合のことをいい、具体的には次の数式により計算します。
なお、適用年度以前から雇用していた人が適用年度途中に65歳となり、高年齢雇用者として適用年度末まで雇用していた場合には、当該人数を前事業年度末日の雇用者数から引いた上で雇用者増加数を算出します。 - 給与等(※1)支給額が比較給与等支給額(※2)以上であること。
※1:給与等からは、法人の役員と役員の特殊関係者(役員の親族など)に対して支給する給与および退職金の額を除きます。
※2:比較給与等支給額とは、次の算式により計算した額をいいます。
前期の給与等支給額+(前期の給与等支給額 × 基準雇用者割合 × 30%)
なお、前期の給与等支給額には、上で説明した高年齢雇用者に該当する者に対する支給額は含まれません。
また、前事業年度末日の雇用者数が0人の場合には、次の算式により計算した額が比較給与等支給額となります。
前期の給与等支給額 + (前期の給与等の支給額 × 30%) - 風俗営業等(※1)を営む事業主ではないこと
※1:「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」に定められている風俗営業および性風俗関連特殊営業(キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホール、麻雀店、パチンコ店など)
制度利用の前提条件
この制度の適用を受けるためには、原則として適用事業年度開始後2カ月以内にハローワークに雇用促進計画の提出を行わなければいけません。
また、適用事業年度終了後2か月以内に、ハローワークで雇用促進計画の達成状況の確認してもらわなければいけません。
なぜなら、この雇用促進計画の提出を行って、ハローワーク等で上記の1.から3までの要件について確認を受け、この際に交付される雇用促進計画の達成状況を確認した旨を記載した書類の写しを確定申告書に添付する必要があるからです。
税額控除限度額
税額控除限度額は、増加雇用者1人あたりにつき40万円です。
ただし、その税額控除限度額がその事業年度の法人税額等の10%(中小企業者等については20%)相当額を超える場合には、その相当額が限度となります。
所得拡大促進税制
個人所得の拡大を図る観点から、企業の給与等支給額を増加させるように、この所得拡大促進税制が創設されたようです。
その為、雇用促進税制と同じく、青色申告法人であれば大企業でも中小企業でも、企業規模に関わらず利用することができる制度となっています。
概略としては、国内雇用者の給与等支給額を一定の要件を満たし規定の割合以上増加させた場合、給与等支給増加額の10%(中小企業等は20%)を法人税額(又は所得税額)より税額控除できる制度です。
適用対象法人
雇用促進税制と同じく、青色申告書を提出している事業主(法人または個人事業主)であることのみです。
※なお、中小企業者等の場合は税額控除限度額等が緩和されています。
適用対象年度
現行では、平成30年3月31日までの間に開始する各事業年度で適用できます。
ただし、次の事業年度については、この制度の適用は出来ません。
- 雇用促進税制の適用を受ける事業年度
- 解散の日を含む事業年度(合併による解散を除きます。)
- 清算中の各事業年度
適用要件
- 雇用者給与等支給額が基準事業年度より一定割合以上増加している。
- 適用年度の雇用者給与等支給額は前事業年度以上の額である
- 平均給与等支給額が、前事業年度を上回っている。
詳しい適用要件は、経済産業省が発行しているパンフレットの「所得拡大促進税制のご利用の手引き」をご覧ください。
税額控除限度額
税額控除限度額は、雇用者給与等支給増加額の10%です。
ただし、その税額控除限度額がその事業年度の法人税額等の10%(中小企業者等については20%)相当額を超える場合には、その相当額が限度となります。
まとめ
中小企業者等については、雇用促進税制と所得拡大促進税制のどちらを適用しても、適用年度における地方税の額を、税額控除後の法人税額を基礎として計算できることとなっています。
また、所得拡大促進税制を適用した場合で、外形標準課税の適用がある法人については、平成27年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する事業年度について規定の要件を満たす場合には、法人事業税付加価値割の算定において一定額を控除することができます。
要件が多い上にわかりにくく、さらに所得拡大促進税制と違い事前申請等が必要と何かと面倒な「雇用促進税制」。
ですが、これから新規雇用を行う予定がある事業主の方は、増加雇用者1人あたりにつき40万円の税額控除が受けられるので検討してみる価値はあると思います。
逆に、所得拡大促進税制は、特段の手続きが必要ありません。
判定は非常に手間がかかりますが、要件さえ満たせば青色申告書に計算明細書を添付するだけで適用することができます。
上でも書いた通り、雇用促進税制と所得拡大促進税制は、いずれか1つのみの選択適用となっています。
ですので、どちらを適用すれば有利になるか不明な場合は、手間はかかりますが、まずは雇用促進税制の雇用促進計画を提出しておくのも一つの手だと思います。
なぜなら、雇用促進計画の提出を行った場合でも、申告の際に所得拡大促進税制を選択することは可能だからです。
どちらも選択できる可能性を残した上で、申告の際にどちらの制度が有利になるか判断するのが、手間は2重にかかりますが、最も有利にできる可能性が高い方法かと思います。
制度の概要は簡単に記載していますので、詳しくは朝日税理法人までお問い合わせください。